第13回 うつ病を理解する(5)《従来のうつ病と社会》《現代のうつ病》

 メディカルストレスケア飯塚クリニック  飯塚 浩
 株式会社アイ・エム・エイチ(橋田カウンセリングルーム) 橋田富美恵

 

■従来のうつ病と社会

 自分が今生きている社会の影響の下、人は自分を方向付けようとします。人間は社会における自分の位置づけがうまくできないときに大きく不安定になります。うつ病の本質は「自分とのつきあい方」にあり、当然のことながら時代の影響を受けます。
 20世紀初頭の重化学工業と都市化が急速に進んだ時、うつ病の増加がみられました。それは第一次産業中心で親しい人間関係の中だけでの生活から、知らない人間だらけの街での生活になるという変化が当然影響しています。その時代のうつ病は今からみると非常に重症なものが多く、妄想といえるレベルまでに「自分の貧乏さ」「罪の意識」「体の変調」に関する不安が高まることが普通にみられました。その時代の社会的要求を厳格に自分に課し、それを実践することで初めて安定した精神状態になれるという生き方の人がこの病気になりやすい人でした。その生き方の破綻が重篤な症状を生んだのです。

 

■現代のうつ病

 数人に一人ともいわれる高頻度で生じ、従来に比較して軽症な人が多いのが現代のうつ病です。これと対をなす今の社会は、十分にモノが満ちていますから生産性だけではダメであり「人との違い」「自分らしさ」を重視するという特徴があります。そういう時代の中でまじめに「人との違い」を追及して「自分らしい自分」を見出そうと多くの人が懸命に努力しています。
 人よりも頑張っている自分、真面目である自分、妥協しない自分、趣味も運動も充実している自分、などを追及し、スケジュール表が埋まっていないと落ち着かないという人が非情に多くなっています。ファッション、ピアス、タトゥーなどで「人との差異」を満たせる人もいれば、そんなものでは追いつかず、極端な自傷行為や拒食といったレベルの行為を用いて自分を確認せざるを得ない人もいます。このような自分を位置づけるための懸命の努力が破綻していく過程こそがさまざまな形で生じる「現代のうつ病」といえます。