第14回 うつ病を理解する(6)《相談への躊躇》《薬についての不安と誤解》

 メディカルストレスケア飯塚クリニック  飯塚 浩
 株式会社アイ・エム・エイチ(橋田カウンセリングルーム) 橋田富美恵

 

■相談への躊躇

 自分の体調や気分が数カ月以上にわたって優れないのにもかかわらず、医師に相談することをためらうタイプの人がいます。女性より男性の方が多いのですが、その理由は「他人に人生相談しても始まらない」「医者に行ったり、薬を飲んだりするほど悪くはない」といったものです。
 これらの態度は多くの誤解に基づいています。まず精神科医やカウンセラーは「人生相談」をするのではありません。相談の目的は「その人が本来持っている対処能力を十分に発揮できるような状態に近づける」ことにあります。人間は単発のストレスには十分強いものですが、体調が悪い時期に強いストレスが加わってしまうと著しくバランスが崩れてしまいます。そのバランスの崩れを無視して、どんなに努力しても問題の解決は遠のくばかりです。精神科医やカウンセラーは問題の解答を伝えるのではなく、その人本来の力を発揮しやすくするお手伝いをするのです。

 

■薬についての不安と誤解

 薬にしても「ふつうに生活できているのに、薬などいるのだろうか」と考えがちですが、通常の生活ができなくなるほど重症な人だけが薬を飲むというのは大きな誤解です。一見したところでは日常生活にほとんど支障がないようにみえる軽症の人にとっても、薬は不可欠ではないにしても、大きなメリットを提供する可能性があるのです。そして回復後には「こんなに楽になるのならばもっと早く治療すべきだった」という感想をもつ可能性も大きいのです。
 抗うつ薬を気分をハイにする薬であると考えている人は「薬などで気分を変えたくない」と思ってしまうかもしれません。しかし抗うつ薬は「普通の悲しみに沈んでいる人」の気分を消し去るようなことはしません。普通の悲しみや怒り、落ち込みも「正常」の気分であるからです。うつ症状のない人が飲んでも何の作用も感じないか、副作用で少し眠気がでる程度でしかありません。抗うつ薬の主たる作用は「疲れている分だけ休ませてくれる」作用です。うつ病の治療は「休養」をセットにして初めて有効なものとなるのです。