第6回 《「システム」としての家族・職場》《ある男性の不幸》

 メディカルストレスケア飯塚クリニック  飯塚 浩
 株式会社アイ・エム・エイチ(橋田カウンセリングルーム) 橋田富美恵

 

■ 「システム」としての家族・職場

 カウンセラーや医師として相談を受ける場でいつも気付かされるのは、家族も職場もひとつの「システム」であるということです。システムとは個々が全体に、全体が個々に、それぞれ影響しあって成立しているひとつの生き物です。家族や職場というのは間違いなくシステムとしての動きをします。どこかでひどい干ばつが生じていれば、別の地域では深刻な水害が発生しているように、ある部分の極端な偏りだけ取り上げて問題にしても解決には至りません。

 

■ある男性の不幸

 人は自分の生まれ育った原家族においてある一定のスタイルを身に着けます。ある男性が「成功がすべてであり、その結果だけで幸せが決まる」というような極端な考えをその生育環境の中で身に着けているとします。この人の人生は「戦い」になってしまいます。常に気を抜けず、失敗をしないよう、他者に負けないよう自分を追い詰め続けます。自分をより品質の高い製品に高めていけば誰もが高い評価をしてくれて幸福になれると漠然と考えています。しかし常に他者と比較し、自分や他者の価値を「商品的」に判断して生きるスタイルはかなり無理の大きい生き方であり、そのツケは必ず回ってきます。その男性自身ではなく、妻が病み、子どもが病むかもしれません。その人が職場の経営者や上司ならば、社員や部下が次々と不調を訴えて戦線を離脱します。
 しかし家族や部下が病んでしまう原因も対処方法もその男性にはわかりません。「わかって」しまったらこれまでの生き方に大きな変更を迫られるからです。ですから男性はわかろうとせず、そして家族や部下は「わかってもらえない」ことに絶望します。男性は周囲に愛されていない不安を振り払うように仕事に没頭したり、いかに自分が家族や社員のために一生懸命働いているかを強調してみたりもしますが、冷ややかな反応に直面します。
 「なんでうまくいかないのだろう…」。この男性の呟きにあなたならどう答えますか。次回以降一緒に考えてみたいと思います。