第123回 家族と幸福(3)~人と人をつなぐシステム~
“止まり木”求め さまよう心(山陰中央新報) | 2003年7月20日
《機能している組織とは》
人は他者との結び付きの感覚がなくては生きていけません。よく機能している社会においては、さまざまな個性の人間同士が容易に連帯をもつことができます。社会の重要なサブシステムであり、現代人の大半が自分の居場所として重視する「家族」「学校」「職場」といった組織の「機能」が今問われています。
本来このような組織は、人と人との結び付きが容易になるようなシステムでなくてはなりません。適切なルールや目的が設定されており、さまざまな人々が身の丈に合った役割を個人がとることができ、その組織を居場所として安定と安心を得ることができます。
しかし現在は、職場や学校、そして家族においてさえ、「居場所」として安心できずに緊張を抱える人々が非常に多い状況です。そして多くの人は自分がもっと頑張りさえすれば何とかなると考えています。そしてさらに自分を追い詰めていき、前回述べたようなアルコールやギャンブルなどの嗜癖や自傷、引きこもり、共依存的な人間関係などの泥沼に陥っていきます。
《システムの機能不全がもたらす心身疾患》
筆者は医者ですから、個人の心身のシステムの変調を診断し治療によって整えることをやってきました。しかし個人の心身のシステムだけでは如何ともし難いケースがたくさんありました。子どもなどでは当然ですが、家族や学校のシステムに大きく状態が左右されます。家族や学校における子どもに割り振られた「役割」が不適切であり、常に緊張を強いられている場合など、診察室で子どもと話しただけではどうにもなりません。
また大人においても似たようなもので、子どもほどの不自由はありませんが、やはり機能不全な家族システムや職場システムで常に緊張を強いられ、心身不調に陥る人は後を絶ちません。現在は副作用の少なく緊張を穏やかに緩和する良い薬が多数開発され、個人の体調のバランスはとりやすくなってはいます。しかしシステムの不備を薬で補っているような面もありますし、あまりにも所属するシステムがひどい場合(例えばドメスティックバイオレンスの存在など)、とても薬だけでは補えません。「家族」「学校」「職場」などのシステムが十分に機能するようになるに越したことはありません。
《システム改善に向けた指針》
さまざまな経緯があって筆者の現在の興味は、「家族」「学校」「職場」などのシステムをいかに機能させ、人を幸福にするように方向づけられるかということに向けられています。最近では「個人」や「家族」の不調に対応する診療やカウンセリングだけでなく、それらの個人の不調を量産してしまう「職場」や「学校」のシステム診断と改善プログラムを提案することにも取り組んでいます。
居心地の悪い組織とは、目的やルールの設定が「上司の気分次第」であったりします。学校においても、教師が髪の色やスカート丈には敏感なのに、人間関係におけるルール違反(自分の価値観で相手を一方的に否定するなどの危険なコミュニケーション)には鈍感であったりすれば、子どもらにとって居心地が良いはずがありません。家族においても父親の機嫌に妻子がピリピリしているような状態では機能不全です。このような機能不全の組織においては、何か問題があると全て個人の資質や根性のせいにされ、個人はいつも緊張を抱えています。
職場、学校、家族などのシステム改善に向けた取り組みに共通するのはまず「個人の資質や根性」を悪者にしてしまう習慣を排除することです。組織における構成員の居心地が悪く、交流や役割の遂行が滞るのは、目的やルールの設定や運用に適切さを欠くからです。レクレーションなどで多人数のゲームをよく行いますが、コーディネーターが上手に目的やルールを設定してくれれば、たとえ初対面の人ばかりの集団であっても、さまざまな個性の人々が活発に交流し、連帯感をもって動くことができるのです。
コミュニケーションが困難であったり、集団における居心地が悪いのは、必ずしも「個人の資質」の問題ではありません。「家族」「学校」「職場」は人と人との結びつきを容易にする機能を果たすべきなのです。