第66回 コミュニケーションを考える(9)~失われた人生の目的~
“止まり木”求め さまよう心(山陰中央新報) | 2001年12月8日
《「目的」を必要とする軍隊スタイル》
今の学校は基本的には軍隊をモデルにしており、教師という上官の一方的な命令に生徒たちが従うというスタイルであることに現在触れました。軍隊スタイルは明治以降日本を軍事大国、そして戦後は経済大国に押し上げる原動力となった優れた学校スタイルです。「戦争に勝つこと」「経済的に豊かになること」などと目的が明確であり、国民の総意がそこにあった時代、このスタイルは大きな力を発揮しました。元来一つの目的に向かって効率よく突き進むに適した手法であるからです。
《高度成長がもたらしたアノミー》
しかし国民全体が同意するような共有できる目的(「戦争に勝つ」「豊かになる」など)は今や失われました。一種のアノミー状態といえます。アノミーとは社会学的な自殺の研究から発生した概念です。世界の中に自分をどう位置づけていいかわからなくなってしまうことです。急激に富を失ってしまうことだけでなく、急激に富を得ることもまたアノミーにつながります。
戦争中は「お国のため」、戦後は「より豊かな生活のため」というように、人々は共通した目的に動機づけられ頑張ることができました。また敗戦後に生じた急性アノミーを「アメリカのような豊かな生活(=幸せ)を手に入れる」という目的をもつことで乗り切りました。そして戦時中と同じような感覚で、艱難辛苦を克服して達成を積み重ね、あっと言う間に世界第2位の経済大国となり、一時は一人当たりのGNPでアメリカを抜くまでに至ったのです。ところがその早すぎる達成が皮肉にも「より豊かな生活のため」「豊かになれば幸せになれる」という人生の目的や動機づけを日本人から奪い、自分にとって何が幸いかわからないというアノミー状態に陥らせたのです。
同じような時期から「いい学校(会社)に入れば幸せになれる」という雰囲気の中で一生懸命頑張ってきた“いい子”が一流大学や企業に入った途端に動機づけが失われ無気力になってしまうという「5月病」現象が生じてきました。
《学校現場のアノミー》
学校現場は社会状況を如実に反映します。挙国一致で「目的」に向かっていた時代は「みんな一緒に頑張ろう」という教育でOKでした。何しろ社会全体が一つの方向を向いて子どもの動機づけを支えているのですから、極端なことをいえば教師の指導力など大して必要なかったのです。「今日はこれをやります」といってそのままお話をすれば多少つまらなくても子どもたちはついてきたのです。
しかし今や社会全体が共有する目的や動機づけはありません。「自分が何をやりたいのか、やればいいのかわからない」という子どもが大勢います。社会のアノミー状況が子どもにも影響しているのです。旧態依然とした“指導”を学校が続けるならば、「崩壊」して当然の状況となっているのです。
以上のような理由から、不登校や学級崩壊に対する根本的な解決は「どのようにして動機づけるか」に尽きるといえるでしょう。可能な施策について次回考えていきます。