第55回 「いじめ」を考える(中)

 イジメとは加害者が自分の立場を利用して陰湿な策略や暴言暴力を用いて相手の存在を貶めたり否定したりする行為です。そのようにして相手の自己肯定感を奪うことで、他者をコントロールしようとします。

 

《親から子への「いじめ」》

 親が子どもに、いかにその子が馬鹿で、ダメで、何もできないかということをあらゆる機会をとらえて強調し、その子の自己肯定感を奪ってコントロールしようとすることはしばしばみられます。これは「しつけ」という言葉で隠ぺいされますが、明らかに「児童虐待」と言う名のイジメです。このような親とのコミュニケーションばかりで成育すると、親や世間の目に著しく敏感でいつもオドオドしているという状態になり、自己否定的に考える癖ができてしまいます。
 ちなみに親がその子自身を貶めなくても、親が周囲の人々に対してやたらと否定的な姿勢を子どもに繰り返しみせていると、子どもに甚大な影響を与えます。子どもの友人の勉強の出来や家柄などを馬鹿にしたり、自分の家系の素晴らしさを強調するあまり他家に関して否定的な発言をしたり、時には自分の配偶者の家系まで悪く言うなどということがあります。子どもは親に否定されたら生きていけません。親が他者をやたらと否定する態度は、たとえその子自身のことでなくても、子どもが自分の自然な感覚を信頼して他者とつきあっていく能力を阻んでしまうのです。

 

《男性から女性への「いじめ」》

 男性が女性に行うイジメとしては、「家事ができない」「何もまともにできない」「妻、嫁、母として失格」「人間として最低」「お前のせいでこんなひどいことになった」などという言葉の暴力を繰り返したり、暴力を奮ったりするといういわゆる「ドメスティックバイオレンス(DV)」があります。DV男性はそのようにして女性の存在を否定するような言動を繰り返して打撃を与え、そして相手を支配しようとします。妻や恋人を自分のことだけを考えるような「意のままになる母親」にしようとするのです。妻に生活費をろくに渡さなかったり、自分の給料や貯蓄額を教えず家計を独占したりします。女性の外出を嫌い、実家の親や友人にも会わせたがらないなど相手の望む交友関係や仕事を制限しようとします。相手の気持を無視した性的行為の強制も頻繁となります。
 このように男性がその立場(経済力など)を乱用して女性の自信や安心感を枯渇させ、暴言暴力や「別れたら死ぬ」などという脅迫で女性を支配しようとする行為は非常に広範にみられます。

 

《いじめ解決の前提》

 イジメ問題を解決する第一歩は「イジメという問題を認識すること」です。いかなる問題もその存在を社会が強く意識しなくては解決はおぼつきません。
 イジメが「問題」であるのは、お互いを幸福にしない人間関係のあり方であるからです。加害者の方にも幸福をもたらしません。そのようなやり方で自分のパワーを確認し脆弱性を補填したとしても、「人に認められ、大切にされている」という安心感を永遠に得ることはありません。加害者に真の満足をもたらさないからこそ、イジメが持続してしまうのです。
 解決に向けて次に大切なのは「加害者が100%悪いこと、被害者が100%悪くないこと」を社会全体が認識すべきだということです。相手に不満なことがあるならば、それはルールに則って主張すべきなのであり、イジメ的な人間関係のあり方を許容する理由には決してなり得ないのです。