第53回 現代社会と心身疾患(4) パニック障害とアゴラフォビア

《パニック障害とは》

 「パニック障害というのをテレビでみて、私もそれだと思うのですが…」という問い合わせが最近増えました。
 パニック障害というのは、動悸や胸苦しさ、呼吸困難感、死ぬのではないかという著しい不安恐怖などを特徴とする発作を繰り返す疾患です。
 人口の1~3%という頻度で発生し、程度のごく軽い人も含めると、さらにその何倍にも上るとみられ、決して少ない病気ではありません。
 患者は突然に予期せぬ形でそのような激しいパニック発作に襲われます。そして、その発作がまたやってくるのではないかという恐れ(予期不安)が生じたり、そのためにさまざまな行動上の変化が現れます。

 

《アゴラフォビア》

 パニック障害で興味深いことは、「アゴラフォビア」という病態を高率に合併することです。「広場恐怖」「空間恐怖」「外出恐怖」など、いろいろな訳語が使われています。
 どのような状態かというと、自分が慣れている店ならよいが、たまに行くデパートなど人が大勢集まっているような場所に居続けられない、各駅停車の電車ならまだましだけれども、特急電車のように次の駅までが長いものは乗れない、飛行機はダメ、タクシーや自家用車ならいいがバスはダメ、ただ自家用車でも渋滞にかかるとダメ、といったようなことが起こります。エレベーターなど狭い空間がダメという人もいます。
 アゴラフォビアの本質とは、安心感のある慣れ親しんだ場所から離れてしまう際に覚える強い恐れなのです。

 

《パニックが先か、アゴラフォビアが先か》

 現在、一般に知られている説では、まず生物学的要因でパニック発作がおこり、アゴラフォビアがそのパニック発作の副産物としてみることが多いようです。つまり、「ここで発作がおこったらどうしよう」という恐れが、アゴラフォビアにつながっているという見方です。
 分かりやすい理論です。確かに薬で簡単に発作が止まる人が多く、そのように考えても問題は少ないのかもしれません。しかし、このような見方をすると「パニック発作を止めないとすべてが始まらない」ということになり、薬が効かないと途端に難渋します。
 筆者としては、アゴラフォビアからパニック発作へという経路も考えておいた方がよいだろうと考えます。安心感のある慣れ親しんだ空間から離れることは、余裕のない状況の人にとっては非常にしんどいことです。
 幼児にとって「ママ」から引き離された際に生じる心身の混乱は、成人でいえばまさに「パニック」というべきものでしょう。
 さまざまな変化や仕事に追われ、安心感を削り、緊張感を上げてなんとか対処してきた人に、ある日突然「パニック」や「アゴラフォビア」が生じるというのは考えやすいことです。

 

《治療そして養生》

 「休めない状態」の持続の結果、うつ病が生じてくることを以前触れましたが、このパニック発作も同様で、さまざまなライフイベントが重なったりするなどのストレス期に多いものです。
 人は無理を続けた際、その人に特徴的な「デリケートな部分」に症状が出現します。胃潰瘍や頭痛、高血圧や低血圧、喘息や糖尿病などの持病の悪化だけでなく、うつ病やパニック障害なども生じてくるのです。また、これらの病気はよく合併してみられます。
 パニック障害の治療はまず薬で発作を止めるのが通常優先されます。しかし、やはりそれだけではなく、「自分を安心させていく」工夫が必要でしょう。
 エネルギッシュで、明るくて、社交的…で「なくてはならない」と考え、自分に無理をさせたりしていないでしょうか。他者を基本的に「自分を大切に扱ってくれる人」とみるのではなく、比較の対象や自分を批判してくる者として考えていないでしょうか。
 自分を追い詰めるのではなく、自分や他者と対話できる環境を模索していくことが、ここでも欠かせない養生のポイントです。