第51回 現代社会と心身疾患(2) うつ病(中)
“止まり木”求め さまよう心(山陰中央新報) | 2001年8月25日
現代生活のあらゆる面における激しい変化に私たちは新旧さまざまなことに対応を迫られ、知らず知らずのうちに体は緊張を持続させている状態にあります。
「変化」は、私たちの身体に自動的に「不安や緊張」というものを生じさせ、それがエネルギーを動員させるのです。
《うつ病とは》
うつ病というのは、このようなエネルギーの動員があまりにも持続したためにエネルギーの需要と供給のバランスがとれなくなった状態です。無理を続けているとその人固有の出やすい部位に症状が生じてきます。それが不眠や食欲不振だったり、血圧の上昇や低下であったり、持病の悪化であったり、原因不明のしびれや痛み、何とも表現し難い体調不良であったりするのです。
ですから、うつ病の人の中には一見しただけでは「うつ」にみえない場合が多くあります。「疲れているのに休めない、体が落ち着かない」という何とも言いようのない苦しさを抱えていたり、薬が効きにくい身体各部の不調を抱えて長年苦しんでいたりするのです。
このようなうまく表現できない苦しみは、他者に理解してもらいにくいものであるために、よりいっそう耐え難いものになってしまうのです。
《うつ病のなりやすさ》
うつ病になりやすい人というは「几帳面」「心配性」「律儀」といった言葉が当てはまる場合がほとんどです。
基本的に繊細な人であり、周囲の環境を自分にとって「安心できる状態」に維持することに多大なエネルギーを注ぎます。模範的な職業人にもなり得る人ですが、変化の激しい現代において繊細さと律儀さをそのままに、力任せに乗り切ろうとするとやはりバランスを崩し、結局何もできないことになってしまいかねません。
《くすりの意味》
うつ病は「休めない」病気ですから、睡眠薬や安定剤のみで何とか休んでいたとしても、ある程度は効きます。また、抗うつ薬なども考慮に入れ、上手に心身の養生をはかることで劇的な改善をみることもしばしばです。
抗うつ薬というとまるで「覚せい剤」のように、単純に活気を増す薬であると誤解している方もいると思いますが、この薬には「休ませる作用」「直接活気を増す作用」というのが含まれています。たくさんの種類があり、その個々に独特の特徴があります。
基本的には、安心感を持ち上げる神経系に働きかけたり、緊張した体を鎮静させたりする「休ませる作用」をベースとして、自然な活気がよみがえってくる環境を整えるのが役割です。
決して疲れ切った人を無理やり働かせる覚せい剤ではありません。そのような使い方では、いずれ破綻してしまうでしょう。
実は「直接活気を増す作用」が強い薬についても、休養に支障があるほど落ち込みが強い場合などに用いるわけで、やはり「休ませる」ためであるのです。
その人の体質や状態に合致した処方は、その人に久しくなかったリラックス感をもたらします。その“ゆるみ”こそが身体にバランスをとる余裕を与えるのです。
しかし、どんなに質の良い処方でもただ薬を飲むだけでは効くものも効きません。どのように養生すべきか、その工夫と考え方について次回触れたいと思います。