第2回 ドメスティックバイオレンス(1)~蔓延する女性への暴力~

《DV防止法の施行》

 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(通称・DV防止法)」が今年10月ようやく施行されました。
 事実婚を含む配偶者からの身体的暴力が対象で、被害者は裁判所に「保護命令」を申し立てることが可能となりました。これにより「6か月間の接近禁止」や「2週間の住居からの退去」を加害者に対し裁判所が命ずることができます。また都道府県に対し婦人相談所などに「配偶者暴力相談支援センター」としての機能を持たせることを定め、一般の人や医療関係者などに同センターや警察への通報を促しています。当然警察にも暴力の制止だけでなく、「被害の発生を防止するために必要な措置を講ずる」ことを求め、被害者の保護を徹底することを定めています。まだまだ不備な点が多いことは否めませんが、それは都道府県(婦人相談所など)や警察または裁判所などにおけるこの問題への理解と運用で補うしかありません。

 

《誰もが無関係ではないDV》

 「男女間における暴力」に関する総理府の調査結果が昨年発表されました。
 夫婦間において「命の危険を感じるくらいの暴行」経験した女性は20人に1人もありました。98年報告された東京都の実態報告では実に3人に1人の女性が夫や恋人などからの身体的暴力を経験しています。これは尋常な数字ではありません。実際、夫が妻を暴力で殺害するという事件は年に100件以上あり、殺人事件の女性被害者の約3割は夫(内縁関係も含む)による犯行です。離婚調停を申し立てる女性の約3分の1が、夫からの身体的暴力を理由にあげ、その数は年間1万件以上にのぼっています。
 しかもこれは「身体的暴力」に限った数字でしかないのです。暴力には身体的暴力以外にも以下のようにさまざまなものがあります。
1) 脅す、罵る、卑下する、無視する等の「精神的暴力」
2) 生活費を入れない、家計の状況を一切妻に教えない、借金を重ねるなどの「経済的暴力」
3) 手紙や電話、行動を監視し、友人や親兄弟などとの付き合いを禁じたり露骨な妨害を加えるといった「社会的暴力」
4) 性的行為の強要、避妊への非協力、あからさまな浮気の反復などの「性的暴力」
 以上のような暴力はなかなか表に出てきませんが、身体的暴力以上の頻度であることは確実でしょう。先の東京都の調査では2人に1人が精神的暴力を経験しています。

 

《暴力を許容する雰囲気の一掃を》

 従来までの男性中心の社会的状況は、筋力優位を背景にした身体的暴力だけでなく、さまざまな形での女性に対する暴力を可能にしてきました。そしてその一方的な暴力に女性が黙って耐えることを強要する雰囲気が今なお残っています。このような社会的雰囲気を一掃することが必要なことはいうまでもありませんが、そのためにはこの問題に関する理解を共有する必要があるでしょう。どのような男性が女性を殴るのか、何ゆえに女性は逃げられなくなるのか、そしてどのような影響を次世代に与えていくのか等について私たちは知っておかねばなりません。
 DVのメカニズム、被害者女性、加害者男性の心理、解決への処方箋などについては次回以降述べさせていただきます。