ドメスティックバイオレンス(4)
未分類 | 2018年8月26日
二次的暴力の根絶を
女性がDVから逃れるためには周囲の理解と協力が不可欠です。逆に言えばDVという問題の解決には、周囲の理解が大きな役割を果たします。自己尊厳を否定される体験を繰り返した女性たちは、自分の力が信じられなくなっており、救いのない絶望の中にいて、解決策を見いだせないままでいるからです。
《夫婦げんかとは別物》
DVを単なる『夫婦げんか』というふうに捉えその被害者の訴えを聞かない姿勢がいまだに根強く存在しますが、これはまったくの誤りです。
DVやイジメのように、相手の自己尊厳の否定を繰り返すことで、他者をコントロールしようとする一方的な行為は“けんか”のような対等かつ双方向のコミュニケーションとはまるで別物です。
これまでの男性優位の社会状況は、筋力優位を背景にした身体的暴力だけでなく、経済的、社会的、精神的など、さまざまな形での一方的な暴力を可能にしてきました。このような状況を背景にしてDVにはさまざまな形があるわけですが、多くの場合、被害女性が死ぬほどの重傷を負うか、少なくとも骨折くらいしないと問題視されません。「男を怒らせた女性が悪い」といわんばかりの周囲の態度が被害女性をさらに追い詰めているのです。
《Aさんの事例》
あるAという女性は「お前のような女は人間として失格だ」というような否定的言葉を夫が不機嫌になるたびに浴びせられ、そのときにみせる夫の表情や物を投げたり壁を殴ったりする威嚇行為に脅えていました。自分の実家に帰ることも友人と会うことについても「ロクな家事もしないで遊んでばかり」などと夫は憎々しげにつぶやき不機嫌になります。このような夫への恐れからどんどん自分自身の生活の幅を狭めていかざるを得ませんでした。しかしある日、夫のあまりにも一方的な非難に対し、つい反論を口にしたAさんにいきなり夫はつかみかかり首を絞めました。何とかその場を逃れたもののもはや恐怖のためにとても夫とは暮らせません。子どもと共に家を出て実家に身を寄せました。
しかし実家において事情を説明しても「片親では子どもが大変だ」「お前のわがまま」というようなことを言われ居場所がない状況です。
離婚調停を申し立てますが「離婚に足る理由が見当たらない」「きちんと働いている夫のどこが不満なのか」「(あからさまな風俗店への出入りや浮気について)奥さんが嫌そうにしているからじゃありませんか」など調停委員に言われます。首を絞められたことについてすら「今こうして生きているのだからご主人は手加減したんですよ」と大笑いしながら言われたのです。第三者である調停委員によるこのような扱いは夫の暴力以上に彼女を傷つけました。しばらくは呆然として怒りもでず、自分がこの世に存在していてはいけないような存在に思えたといいます。
《解決に向けて》
しかしこのような例は筆者が知っているだけでもキリがないほどあるのです。男性が「きちんと働いていている」というだけで、女性への暴力までが免責される今の状況はあきらかに間違っています。暴力を奮う男性というのは「男らしさ」というものにこだわり、周囲の目に自分がどう映るかということにびくびくしている脆弱な人です。あからさまな虚勢を張っている“チンピラ風”男性もいるにはいますがそれは一部であり、暴力夫の大半は「外面がとてもいい」男性たちなのです。
人は自分を大切にできないような状況に長く自分を置いてはいけません。あなた方の娘や友人がDV被害にあっているとき、オトコ社会の屁理屈ではなく、普通に大切にしてあげてください。まして調停委員ならば「女性は耐えるべきだ」「あなたが男を怒らせたのではないか」といった態度で間違っても対応せず、彼女らの話に普通に耳を傾けていただきたいのです。
周囲の人たちによる“二次的な暴力”を減らすことが、女性を“暴力の檻”から解放する第一歩なのです。
日本海新聞連載(平成13年12月18日付)より