佐賀バスジャック事件(1)
未分類 | 2018年8月26日
今年のゴールデンウイークに飛び込んできたバスジャックのニュースは、何ともいえぬ不快と不安を日本中にもたらしました。折しも愛知では、同じ17歳の少年が見ず知らずの主婦を殺害した直後でした。神戸の連続児童殺傷事件以来、これだけ続くとさすがに他人ごとではありません。わが息子のことをチラリと思い浮かべてみた方も多いでしょう。
事件を起こした少年が、もともと“まじめないい子”であることや、少年らの家庭環境に特に際立った点がないことなども「他人ごと」にしにくく、われわれを不安にさせます。当事者家庭の「特殊性」を見つけ、後はさっと忘れてしまいたくなります。しかし、それをしては解決になりません。ここでは素直に経過を追ってみましょう。
《まじめないい子》
少年は、両親と妹の4人家族の長男として、勉強ができる几帳面ないい子として生活していました。父親は大手メーカーのサラリーマン、母親は保健婦という平均的な家庭です。両親もそして少年自身も近所の評判は良く、とりわけ目立つ存在ではありません。「勉強のできるまじめな生徒」「運動音痴」「妙にプライドが高い」などと級友は少年の印象を述べています。
《突然の異変》
中3の夏、この少年に突如異変が生じます。今までの性格が一変したかのように、勉強に意欲を失い、ペットをいじめ、妹に暴力をふるい、物を破壊し、親に暴言を吐くようになりました。
母親はその原因について、学校におけるいじめの存在を強調しています。実際、少年自身も「いじめられてけがをした」として、中3の冬の腰椎(ようつい)骨折について語っています。これは、級友が少年の筆箱を隠し「返してほしいならやってみろ」と、3人ほどの級友が校舎の階段の踊り場から1階に先に飛び降りてみせたようです。そのようにして、きゃしゃだがプライドの高い少年は追いつめられ、ムキになって同じように飛び降りたために骨折してしまった、というものです。
非常に深刻ないじめとはいえないかもしれませんが、このような級友の行為が尊厳を否定された体験として、彼の焦りを増したことは事実でしょう。彼は家庭においても、学校においても虚勢を張り続けていました。思うような評価を得られず、納得のいく自己像を維持できないことにいら立っていたようです。
山陰中央新報連載(平成12年9月2日付)より