第9回 うつ病を理解する(1)《「うつ病」は誤解だらけ》《うつ病を放置するとどうなるか》

 メディカルストレスケア飯塚クリニック  飯塚 浩
 株式会社アイ・エム・エイチ(橋田カウンセリングルーム) 橋田富美恵

 

■ 「うつ病」は誤解だらけ

 メンタルヘルスの問題として、一般に最もよく知られているのが「うつ病」です。しかしこれほど誤解が多い病気も珍しいでしょう。「自分とは関係がない弱い人間がなるもの」「気の持ちようでなんとでもなるもの」などと考えている人があまりにも多いのです。そういったこの疾患に対する社会的な無知が、多くの人が症状を有しながらも長期間放置されてしまう原因となっています。また専門家の治療に結びついた後でさえも、「気分転換が必要」と称して周囲にさまざまな無理を強いられたり、「薬に頼っていてはいけない」などと助言され、ようやく緒に就いた治療を台無しにされてしまうこともしばしばです。
 専門家が用いる「うつ」とは、何らかの挫折を経験したときの誰もが感じる落ち込みを指すのではありません。イライラしやすい、自責感や罪悪感をもちやすい、自尊心がもてない、物事を楽しめない、睡眠や摂食行動の不安定化などのさまざまな症状をまとめて表す言葉が「うつ」なのです。単刀直入に言えば、うつ病は「心の病気」などではなく、脳の神経伝達機能に失調をきたした「身体の病気」なのです。うつ病は、ストレスフルな出来事の後に起こりやすく、表面に出てくる症状は感情や意欲、睡眠、食欲などの不調です。そのため多くの人が「誰もが陥る一時的な落ち込みや不調」から「性格的な弱さのためになかなか抜け出せないでいるだけ」と捉えてしまいやすいのです。

 

■うつ病を放置するとどうなるか

 うつ病は軽度のうちは一見普通の生活を送ることが可能です。しかし嫌な問題を棚上げしたり、楽天的にものを考えるといった、心の平静を保つ能力が低下します。その結果、「自分で病気を作っている」ような印象を周囲に与えます。またイライラしやすく、それが対人関係の悪化をもたらすこともしばしばです。うつ病を治療せず放置することは、たとえ軽症であっても不利益が非常に大きいものなのです。その上再発率の上昇や重症化、難治化などのリスクもあります。放置は全くお勧めできません。