第8回 《ガンバリズムの罠》《本当の安心》
職場で役立つストレスマネジメント(山陰経済新聞) | 2004年7月28日
メディカルストレスケア飯塚クリニック 飯塚 浩
株式会社アイ・エム・エイチ(橋田カウンセリングルーム) 橋田富美恵
■ ガンバリズムの罠
現代人は常に何かに追い立てられています。「成果をあげれば報われる」という原理を幼い頃から繰り返し学んでいます。それが親、教師、職場の上司などの言動によって際限なく強化されていることから、もはや私たちの行動原理の中心となっています。日常生活において自分が担うべき責任と自分の存在意義がこの原理と結びついています。
少しでも自分の生産性を向上させようと無理をしているのは、会社員も主婦も子どもも全く同様です。成果主義やガンバリズムは一種の宗教となっており、生産性向上は現代人の自己評価に大きく影響を及ぼしています。幼い頃からの頑張りで周囲からの高い評価が当然であり、それを根拠に自分の安定を保っているいわゆるプライドの高い人は、特に生きづらくなってきています。ある男性がいくら会社でこの上もなく頑張ってみても、妻子の方は仕事にしか興味がないように思えるこの男性を全く評価できないかもしれません。また会社の中での価値観もさまざまですから、精魂傾けた努力が社内で全く評価されないといったこともあるでしょう。この男性は理解のない妻や上司に対する不満と怒り、そして今後に明るい見通しがほとんどもてないことに絶望的な気分になるでしょう。このような不幸はなぜもたらされたのでしょうか。
■本当の安心
単純なガンバリズムでバランスがとれるのは、戦争中や発展途上段階の社会にみられるような、単一の価値観が共同体を覆っているような状況に限られます。現代のような多様な価値観が交錯する社会では通用しないのです。
カネや地位といった成功は、現代人にとって親が与えてくれる安心感の代替物のようなものになっています。しかし安心や幸福のための手段が創造性や柔軟性を奪っている時には注意せねばなりません。「自分はどこにいっても人に受け入れてもらえるだろう。何とかやっていけるだろう」といった本当の安心とは、日常生活で試行錯誤を繰り返しながら、自分の内面に形成していくものなのです。