第128回 ストレスを考える(3)~ストレス・マネジメントとは何か~
“止まり木”求め さまよう心(山陰中央新報) | 2003年10月19日
《「緊急事態」ばかりの生活》
さまざまな変化に際して生じるストレスはあって当然のものであり、緊張などのストレスに対する反応は生物が存在を維持するために欠かせないものです。しかしストレス反応というものは、本来、変化に適応し次の安定状態に移るまでの「つなぎの身体状態」であり、バランスの悪い不安定な状態といえます。消化吸収機能などは低下し、各種器官に負担をかけます。
そのような「緊急事態」的な身体状態を持続させて、何も起こらないわけがありません。さまざまな形で警報が発せられます。それが身体各部の痛みやしびれであったり、持病の悪化であったり、検査値には問題のないさまざまな身体症状であったりします。また身体だけでなく、気分についてもいつまでも爽快であるわけがありません。当然精神的にも余裕のない状態となり、やる気は失われ、外からの刺激は非常に侵入的なうっとおしいものと感じられるようになります。行動にも変化があらわれます。飲酒量や喫煙量の増加、パチンコへの過度な耽溺などがみられたり、人間関係を避けるようになるなどします。
《ストレス・マネジメント》
現代社会の脅迫的な構造は、本来は「緊急事態」でのみ生じていた身体反応を日常的に生じさせてしまうという状況を生んでいます。慢性的な緊張状態はさまざまな不調を生じさせます。そのような心身疾患のあまりの急増のため、近年欧米を中心にストレス・マネジメントの必要性が叫ばれているのです。
本当は社会の構造の方に問題があるのですが、多くの人が心身の不調を抱えている事態にとりあえず対処する必要に迫られているのです。 現在欧米のほとんどの主要企業がEAP(従業員支援プログラム)を導入していることからもその切迫感が伺えます。企業において個人や組織単位でストレス・マネジメントの知識の周知と実践を支えるシステムがEAPです。これをコストに厳しい米企業の多くが導入する理由は、休職や退職の減少や作業効率の上昇など、形ばかりの保養所を設置するなどよりはるかに目に見えた効果があるからです。
ストレス・マネジメントの基本は慢性的な緊張を防ぐことにありますが、これは脅迫的な社会に生きるわれわれにとって容易なことではありません。「もっと楽になれるし、なってもいい」という発想自体を持ちにくく、緊張が慢性化しているため、自分が緊張していることすら意識していない場合も多いのです。
どんな人でももっと楽になれます。これについて「でも…」とすぐ考えてしまった人は、かなり慢性的な緊張状態にあるはずです。自分がどれだけ疲れているかよくわかっていない状態でもあるでしょう。ストレス・マネジメントの工夫を始めることをおすすめします。