第126回 ストレスを考える(1)~慢性緊張が生む心身の変調~
“止まり木”求め さまよう心(山陰中央新報) | 2003年9月14日
《ストレスとは何か》
現代はストレスに満ちているといわれ、ストレスによって悪化する心身の病に悩む人が少なくありません。ストレスとは何なのでしょうか。
ストレスはさまざまなストレスをおこす原因(ストレッサー)によって引き起こされます。身体は緊張し、心も体もストレッサーに対処する態勢となります。これがストレスです。筆者が今原稿の締切に追われているのもストレスなら、気候の変化も新しい人との出合いもストレスです。それではみんなストレスじゃないのかと思われるでしょう。その通りなのです。私たちの生活とはさまざまな刺激や変化というストレッサーに対処する適応行動そのものです。「ストレスなどない」ということは実はありえないことです。私たちはさまざまな変化に常に対処しているからです。
《ストレスの功罪》
ストレスにはプラス面とマイナス面があります。プラス面としてはやる気や集中力が増し、能力が発揮しやすくなります。物事を達成したり、成功させたりしやすくなります。このような経験が動機づけとしてあるため、私たちは常に自分を頑張らせようとしているのです。そのような状況の中で、ストレスのマイナス面が生じてきます。これは多くの人が経験しているように、過剰な焦りや緊張のために空回りし、かえって集中力が落ちてしまったり、能力が発揮できなくなってしまうという現象です。
《「悪いストレス」が生じる条件》
このようなストレスのマイナス面が強くでるには2つの大きな条件があります。一つは慢性的な緊張や疲労の蓄積です。一定レベル以上の慢性緊張や疲労に達すると、その後に生じるストレスは全て「悪いストレス」となり、身体も心もただ重くしてしまうだけのものになります。それなのになお「頑張り」続けることは、悪循環を生じます。そのような状態の持続の結果、「心の問題」や「身体の問題」として表面化してくるのです。友人と会うだけなのにひどく億劫になったり、テレビなども楽しめなくなります。お風呂に入るのも、コップ一つ洗うのも面倒になったりします。いわゆる「うつ状態」です。イライラしたり、とくに子どもなどでは攻撃的になったりすることもあります。一つ一つのささいな刺激が「突き刺される」ように感じてしまうため、過度に反応してそれを振り払おうとするためです。カーテンを閉め切って独りで引きこもることとコインの裏表のような反応です。また、身体の問題としてはその個人の出やすいものが「何でも」生じてくる可能性があります。いわゆる「過労死」レベルには至らなくても、胃潰瘍やアトピー、高血圧、糖尿病などの悪化、頭痛、腹痛、めまい等、さまざまなものが生じます。
慢性緊張や疲労蓄積以外のもう一つの条件は「過度なストレス」です。いくら慢性緊張や疲労がなくともあまりにも過度なストレスがかかれば、身体は対応しきれず全て「悪いストレス」となってしまうのです。極度のストレスと緊張にさらされると人間の身体は弛めることをしなくなります。犯罪や災害の被害などによるPTSD(心的外傷後ストレス障害)では典型的ですが、あまりにも過度のストレスに曝されるため、長期間にわたって過剰な緊張と抑うつ、突然の記憶の蘇りによる恐怖や悪夢、さまざまな身体症状が生じてくるのです。
われわれはこのようなストレスの基礎的な知識を理解しておく必要があります。さもなければただただ「根性」に頼り、悪循環に苦しみつつ自信を失っていくだけになってしまうでしょう。